相続の単純承認と限定承認 司法書士

相続の単純承認と限定承認

相続が開始すると、被相続人に属した相続財産(遺産)は、相続人の知、不知にかかわらず、また望む、望まぬかにかかわらず、一応、相続分に応じて相続人に当然帰属することを建前とします。

 

しかしながら、相続財産には、不動産や預貯金等の積極財産だけでなく借金等の消極財産も含まれますので、この建前を貫くと相続人にとって過大な負担となることもあります。

 

また、積極財産であっても相続することを潔しとしない相続人もいることでしょう。

 

そこで、民法は、相続の承認及び放棄の制度を設け、相続するかどうかを、相続人の自由な意思に委ねることとしました。
このページでは、相続の承認について解説します。
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相続の承認には、相続財産を全面的に承継することを内容として相続を承認する単純承認と、相続債務については、相続財産を限度に責任を負い、自己の固有財産をもって責任を負わないという条件付で相続を承認する限定承認があります。

 

相続の単純承認

相続の単純承認とは
被相続人の財産に属した権利義務を全面的に承継することを承認することである。
単純承認をすると被相続人が残した借金などの債務の全てを相続人において弁済しなければならず、相続債権者は、相続人の固有財産に対しても強制執行することができます。

 

単純承認の方式
戸籍上の届出や家庭裁判所への申述等は要求されておらず、作為・不作為などの何らかの形で単純承認するという意思が表示されれば足りるとされています。

 

単純承認の効果
単純承認をすると以後、当該相続に関して熟慮期間(自己のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月)経過前であったとしても、相続放棄又は限定承認をすることができなくなります。

 

単純承認の擬制

以下に該当する場合には、相続人は単純承認をしたものとみなされます。(民法921条)

 

@相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(1号)
1 単純承認したものとみなされる処分
・相続不動産の売買
・経済的価値の高い動産(美術品・着物など)の売却
・相続債権を取り立てて、収受領得する行為
・遺産分割協議
・相続した株式に係る株主権の行使

 

相続財産の処分には事実行為も含まれます。
・相続財産を故意に破壊・毀損した場合など

 

単純承認とみなされる相続財産の処分は、被相続人の死亡の事実を知った後か、死亡を確実に予想しながら行った処分に限られます。(最判昭和42年4月27日)

 

2 単純承認をしたとみなされない処分
・保存行為および短期賃貸借契約(1号但書)
保存行為とは、相続財産の現状を維持するのに必要な行為のことで、相続家屋の修繕(大修繕は除く)、
相続債権の時効中断行為等が該当します。

 

短期賃貸借とは、10年を超えない山林の賃貸借、5年を超えない山林以外の土地の賃貸借、3年を超えない建物賃貸借および6ヶ月を超えない動産の賃貸借のことをいいます。(民法602条)

 

また、軽微な慣習上の形見分けや、葬儀費用の支出は、単純承認をしたものとみなされる処分にはあたらないとされています。

 

共同相続人が単純承認をしたものとみなされる処分をした場合の限定承認の可否
相続人の1人が単純承認をしたものとみなされる処分をしたため、限定承認をすることができなくなった場合、他の相続人が限定承認をすることができるかどうかですが、限定承認は相続人全員でしなければならないとされているので、相続人の中に、限定承認をすることができない者がいる場合は、もはや相続人全員で限定承認をすることができないので、他の相続人も限定承認をすることができないというのが通説的見解となっています。

 

A熟慮期間の徒過(2号)
熟慮期間(自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月)内に相続放棄又は限定承認の申述をしなかった場合、熟慮期間の経過によって単純承認をしたものとみなされます。

 

B背信行為による単純承認(3号)
相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときは、単純承認をしたものとみなされます。

「隠匿」とは
相続財産の存在を容易には分からなくしてしまう行為
「私に消費する」とは
相続債権者が不利益になることを認識しながら相続財産を消費する行為
「悪意の不記載」とは
相続債権者を詐害しようとする財産隠匿の意思をもって財産目録に記載しないこと

 

ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、単純承認は擬制されません。

 

 

相続の限定承認

限定承認制度
限定承認とは、不動産や預貯金等の積極財産を限度に相続債務の責任を負担すること条件に、相続を承認する制度です。

 

相続財産のうち、借金等の消極財産が、不動産や預貯金等の積極財産を上回ることが明らかである場合は、相続人は相続放棄をすればよいのですが、積極財産が多いのか消極財産が多いのか判明しない場合、相続すべきか放棄すべきか迷うことがあります。

 

このような場合、限定承認をすれば、積極財産が多ければ、清算の結果残った財産を相続することができますし、消極財産が多い場合には、相続財産から返済できなかった部分について自己の固有財産もって返済する責任を負いませんので、相続人は過大な債務負担から免れることができます。

 

限定承認の方法
自己のために相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内に財産目録を調製して、これを家庭裁判所に提出し、限定承認する旨の申述をしなければなりません。(民法924条)

 

相続人が数人あるときは、共同相続人全員で限定承認する旨の申述をする必要があります。(民法923条)

 

共同相続人の中に、相続放棄をした者がいるときは、その者はその相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法939条)ので、相続放棄した者以外の共同相続人全員で限定承認する旨の申述を行います。

 

限定承認の効果
限定承認をした場合、相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務および遺贈を弁済する責任を負い、単純承認のように自己の固有財産をもって責任を負う必要はなくなります。
なお、限定承認によって相続債務が消滅する訳でなく、責任の範囲が相続財産に限定されるだけであり、自己の固有財産をもって相続債務を弁済した場合、当該弁済は、有効な弁済であり、非債弁済には当りません。

 

相続財産の管理
相続人が1人の場合は、その者が相続財産を管理することになるが、相続人が数人いる場合は、家庭裁判所が相続人の中から相続財産管理人を選任し、その者が相続人のために、相続財産の管理及び債務の弁済に必要ない一切の行為を行います。(民法936条)

 

限定承認の清算手続
1 除斥公告
限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、いっさいの相続債権者および受遺者に対し、限定承認をしたこと、および2ヶ月を下らない期間を定めてその期間内に債権の申出がなければ清算から除斥する旨を付記して、その請求を促す官報公告を行います。

 

また、知れている債権者および受遺者に対しては、各別に債権の申出の催告をしなければなりません。

 

この期間内に債権者又は受遺者から請求があっても、その弁済を拒むことができます。

 

2 弁済
公告期間満了後、公告期間内に申出をした債権者および知れている債権者に対して債権額の割合に応じて弁済をします。優先権を有する債権者がいる場合には、その債権者に対して優先的に弁済します。
受遺者に対する弁済は、相続債権者への弁済後でなければ行うことができません。

 

3 相続財産の換価
@競売
弁済のため、相続財産を売却する必要があるときは、競売に付すのを原則とします。

 

A民法932条但書の価格弁済
ただし、限定承認者は、家庭裁判所が選任した鑑定人の鑑定評価額を弁済して競売を差し止めることができます。この制度により、どうしても手放したくない相続財産がある場合には、価格弁済することにより、その相続財産を手元に残すことが可能になります。

 

B任意売却
相続財産を換価する方法として、任意売却が可能かどうかですが、限定承認者が、相続財産管理人および相続債権者と協議の上、第三者に任意売却した場合にも、限定承認は無効とならず、当該任意売却も有効と解するのが多数説です。

 

 

 

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