配偶者居住権の登記手続き
配偶者居住権とは、相続開始時に、被相続人の配偶者が被相続人が所有していた建物に居住していた場合に、当該建物に引き続き無償で居住することができる権利です。配偶者居住権は、遺贈や遺産分割により取得することができ、配偶者居住権設定登記をすることにより第三者に対してその権利を主張することができるようになります。

配偶者居住権の登記

配偶者居住権とはどのような権利なのか
残された配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合で、一定の要件を充たすとき、被相続人が亡くなった後も、配偶者が、賃料の負担なく(無償で)その建物に住み続けることができる権利です。

 

なお、居住建物が被相続人とその配偶者以外の者との共有の場合には、共有建物につき配偶者居住権は成立しません。

 

@配偶者居住権は、被相続人による遺贈又は死因贈与により取得することができます。

 

A相続開始(被相続人の死亡)後は、相続人全員による遺産分割協議によって取得することができます。

 

遺贈又は死因贈与による配偶者居住権の取得
被相続人が死亡した後、その配偶者の居住権を確保するために、生前対策として行うものです。

 

遺産分割による配偶者居住権の取得
被相続人が生前に配偶者居住権を遺贈又は死因贈与していなかった場合、相続人全員の合意により配偶者居住権を取得することができます。

 

配偶者居住権を取得したら登記が必要

配偶者居住権は、その登記をしないと配偶者居住権を取得したことを第三者に対して主張することができません。

 

たとえば、配偶者居住権の登記をしないうちに、相続人から配偶者居住権に係る建物を譲り受けた者(第三者)が先に所有権の登記をしてしまうと、配偶者居住権に基づき建物に住み続けることができなくなってしまいます。

 

そのため、配偶者居住権を取得したときは、速やかに配偶者居住権の登記を行う必要があります。

 

配偶者居住権の登記手続は、居住建物の所在地を管轄する法務局で行います。

 

 

配偶者居住権設定登記の手続

配偶者居住権設定登記は、配偶者居住権を取得した配偶者と居住建物の所有者が共同して居住建物の所在地を管轄する法務局に申請します。

 

前提登記の申請
配偶者居住権設定登記を申請するには、居住建物の登記名義を被相続人から居住建物を取得した相続人等にしておく必要があります。(居住建物の相続人等への所有権移転登記と、配偶者居住権設定登記を連件で申請することができます。)

 

遺贈により配偶者居住権を取得した場合

遺言執行者がいる場合
1,登記申請人
配偶者居住権を取得した配偶者と遺言執行者(遺言執行者がいないときは、居住建物を相続等により取得した相続人)

 

2,添付書面
@登記原因証明情報
報告形式の書面または遺言書及び遺言者の死亡の記載がある戸籍謄本等
【参考】登記申請書の様式及び記載例(法務局ホームページ)より

登記原因証明情報
1 登記申請情報の要項
(1)登記の目的 配偶者居住権設定

 

(2)登記の原因 令和2年6月1日遺産分割

 

(3)当事者
権利者(甲) 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
       法 務 花 子
義務者(乙) 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
       法 務 一 郎

 

(4)不動産の表示
所  在 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
家屋番号 ○番
種  類 居宅
構  造 木造かわらぶき2階建
床 面 積  1階 43・00平方メートル
     2階 21・34平方メートル

 

2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)遺言者法務太郎(住所 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地)は、令和2年4月15日付け遺言書のとおり、本件建物(上記1の(4)の建物。以下同じ。)について、権利者(甲)に配偶者居住権を遺贈する旨の遺言をした。
(2)遺言者法務太郎(住所 同上)は、令和2年5月15日に死亡し、同日、上記(1)の遺言の効力が生じた。
(3)権利者(甲)は、同日、配偶者居住権を取得した。
なお、本件配偶者居住権については、権利者(甲)と義務者(乙)との間で定めた、権利者(甲)が第三者に本件建物の使用又は収益をさせることを許す旨の定めがある。
(4)権利者(甲)は、遺言者(被相続人)法務太郎(住所 同上)が所有していた本件建物に相続開始の時に居住していた。
(5)権利者(甲)は、相続開始の時に法律上遺言者(被相続人)法務太郎(住所同上)と婚姻関係にあった。

 

令和2年6月10日 〇〇法務局(又は地方法務局)〇〇支局(又は出張所)

 

登記原因は上記のとおりである。

 

(権利者)(甲) 住所 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
           法 務 花 子  印
(義務者)(乙) 住所 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
           法 務 一 郎  印

 

2 登記の原因となる事実又は法律行為の(3)について
配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有者の承諾がある場合に限り、居住建物を第三者に使用収益させることができます。(民法第1032条第3項)
居住建物の所有者との間で、第三者に使用収益をさせることができることにつき合意したときは、登記原因証明情報にその旨を記載します。

 

2 登記の原因となる事実又は法律行為の(4)について
配偶者居住権が成立するためには、配偶者が被相続人所有の建物に相続開始の時に居住していたことを要するので、その旨を登記原因証明情報に記載して要件に該当することを明らかにする必要があります。

 

2 登記の原因となる事実又は法律行為の(5)について
配偶者居住権を取得することができる配偶者とは、相続開始の時に法律上被相続人と婚姻していた者に限られますので、その旨を登記原因情報に記載して要件に該当することを明らかにする必要があります。
(いわゆる内縁関係にある事実上の配偶者は、配偶者居住権を取得することができません。)

 

A登記識別情報
居住建物の所有者(遺贈又は相続により居住建物を取得した相続人等)が居住建物の所有権移転登記を受けた際に通知された登記識別情報
居住建物の相続人等への所有権移転登記と配偶者居住権の登記を連件で申請するときは、居住建物の所有者の登記識別情報の提供は不要

 

B印鑑証明書
作成後3ヶ月以内の遺言執行者(遺言執行者がいないときは、居住建物を相続等により取得した相続人)の印鑑証明書

 

C遺言執行者の権限を証する書面
遺言執行者が申請する場合は、遺言書および遺言者の死亡の記載がある戸籍謄本(登記原因証明情報としてこれらの書類を提供している場合は、重ねて添付する必要はなし)
家庭裁判所により遺言執行者が選任された場合は、家庭裁判所の選任審判書の謄本

 

D居住建物の固定資産税評価証明書等
配偶者居住権設定登記の登録免許税は、居住建物の固定資産税評価額の1000分の2です。
居住建物の固定資産税評価額を明らかにするため、固定資産税評価証明書等を添付します。

 

遺産分割協議により配偶者居住権を取得した場合

1,登記申請人
配偶者居住権を取得した配偶者と居住建物を相続等により取得した相続人等(居住建物の所有者)

 

2,添付書面
@登記原因証明情報
報告形式の登記原因を証する書面
【参考】登記申請書の様式及び記載例(法務局ホームページ)より

登記原因証明情報
1 登記申請情報の要項
(1)登記の目的 配偶者居住権設定

 

(2)登記の原因 令和2年6月1日遺産分割

 

(3)当事者
権利者(甲) 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
       法 務 花 子
義務者(乙) 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
       法 務 一 郎

 

(4)不動産の表示
所  在 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
家屋番号 ○番
種  類 居宅
構  造 木造かわらぶき2階建
床 面 積  1階 43・00平方メートル
     2階 21・34平方メートル

 

2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)被相続人法務太郎(住所 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地)は、令和2年5月15日に死亡し、同日、相続が開始した。
(2)被相続人法務太郎(住所 同上)の相続人は、配偶者法務花子、子法務一郎及び子法務温子の3名である。
(3)権利者(甲)は、令和2年6月1日、遺産分割協議により、本件建物(上記1の(4)の建物。以下同じ。)について、配偶者居住権を取得した。取得した配偶者居住権の成立日は、被相続人法務太郎(住所 同上)の死亡日である令和2年5月15日である。
なお、本件配偶者居住権については、権利者(甲)と義務者(乙)との間で定めた、権利者(甲)が第三者に本件建物の使用又は収益をさせることを許す旨の定めがある。
(4)権利者(甲)は、被相続人法務太郎(住所 同上)が所有していた本件建物に相続開始の時に居住していた。

 

令和2年6月10日 〇〇法務局(又は地方法務局)〇〇支局(又は出張所)

 

登記原因は上記のとおりである。

 

(権利者)(甲) 住所 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
           法 務 花 子  印
(義務者)(乙) 住所 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
           法 務 一 郎  印

 

2 登記の原因となる事実又は法律行為の(3)について
配偶者居住権の存続期間(民法第1030条)
配偶者居住権の存続期間は配偶者が死亡するまでとなっています。(終身の権利)
ただし、遺産分割により別段の定めをしたときは、その定めによります。(例えば成立日から○年間)

 

存続期間の始期については、民法で定められていませんが、遺産分割によりその始期を定めることができると解されており、通常、「相続開始時(被相続人の死亡した日)」又は、「遺産分割の成立日」をその始期とするものと思われます。

 

遺産分割でその始期につき特段定めなかったときは、遺産分割成立の日をもって配偶者居住権の存続期間の始期になるものと解されます。

 

第三者へ使用収益させることできる旨の定め(民法第1032条第3項)
配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有者の承諾がある場合に限り、居住建物を第三者に使用収益させることができます。(民法第1032条第3項)

 

第三者に使用収益をさせることを承諾する旨の定めがあるときは、登記原因証明情報にその旨を記載します。

 

2 登記の原因となる事実又は法律行為の(4)について
配偶者居住権の成立するには、相続開始時に、配偶者が被相続人が所有する建物に居住していたことが要件の一つになりますので、登記原因証明情報に相続開始時に配偶者が居住建物に居住していたことを記載します。

 

A登記識別情報
居住建物の所有者(遺贈又は相続により居住建物を取得した相続人等)が居住建物の所有権移転登記を受けた際に通知された登記識別情報
居住建物の相続人等への所有権移転登記と配偶者居住権の登記を連件で申請するときは、居住建物の所有者の登記識別情報の提供は不要

 

B印鑑証明書
作成後3ヶ月以内の居住建物の所有者の印鑑証明書

 

C居住建物の固定資産税評価証明書等
配偶者居住権設定登記の登録免許税は、居住建物の固定資産税評価額の1000分の2です。
居住建物の固定資産税評価額を明らかにするため、固定資産税評価証明書等を添付します。

 

 

 

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