農地の条件付所有権仮登記の名義人が死亡したときの登記手続
農地法所定の許可を条件とする農地の売買契約を締結し、条件付所有権移転の仮登記を行った後に、仮登記名義人が死亡した時に必要となる登記手続きについて司法書士が解説します。

農地の条件付所有権仮登記の名義人が死亡したときの登記手続

この記事では、農地法所定の許可を条件とする農地の売買契約を締結し、条件付所有権移転の仮登記を行った後に、仮登記名義人が死亡した時に必要となる登記手続きについて司法書士が解説します。

 

農地の条件付所有権移転の仮登記
農地を譲渡(売買や贈与)するには、原則として農地法所定の許可が必要になります。
農地法所定の許可があって初めて譲渡人から譲受人に当該農地の所有権が移転することになります。

 

このように、農地法所定の許可があるまでは、譲受人は所有権移転登記を行うことができず、その間不安定な状態に置かれることになることから、登記実務では、農地について条件付売買契約等を締結したときは、譲受人のために条件付所有権移転の仮登記を行うことが認められています。

 

【条件付所有権移転の仮登記の登記記録例】
甲区(農地)

順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転

昭和○○年○月○日
第○○号

原因 昭和○年○月○日売買
所有者 住所
 甲 野 太 郎

条件付所有権移転仮登記

平成○○年○月○日
第○○号

原因 平成○○年○月○日売買
(条件 農地法第3条の許可)
権利者 住所
 乙 野 太 郎

上記は、売主甲野太郎と買主乙野次郎との間で農地の売買契約を締結し、未だ農地法の許可を得ていないので、農地法の許可を得ることを条件とする条件付所有権仮登記を行った登記記録になります。

 

以下、上記登記記録をもとに、仮登記名義人である乙野太郎が死亡した時の登記手続について、仮登記名義人が農地法の許可を得る前に死亡した場合と許可を得た後に死亡した場合とに分けて解説致します。

 

 

農地法の許可を得る前に仮登記名義人が死亡した場合

農地法の許可を得る前に仮登記名義人である乙野次郎が死亡すると、乙野太郎の相続人が当該の農地の売買契約上の買主の地位を相続することになります。

 

農地法の許可を得ていないので、当該農地の所有権は未だ売主甲野太郎が有しています。

 

買主の相続人は、売主に対して農地法の許可申請協力請求権を行使することができます。
農地法の許可申請は、譲渡人甲野太郎、譲受人乙野太郎の相続人で申請します。

 

農地法の許可が下りると、当該農地の所有権は、乙野太郎の相続人に移転することになります。
(但し、特約として売買代金完済時に所有権が移転する旨の定めがあれば、所有権が買主に移転するには、売買代金を完済している必要があります。)

 

必要な登記手続について

農地法の許可前に、農地の条件付売買契約の買主を相続した場合、その相続人は条件付所有権の仮登記を自己の名義に変更することができます。(条件付所有権移転仮登記の移転登記)

 

また、農地法の許可を得て、所有権が売主から買主に移転したときは、仮登記の本登記を申請することができます。(所有権移転登記(仮登記の本登記))

 

@条件付所有権移転仮登記の移転
乙野太郎の相続人名義の所有権移転登記の前提として、順位番号2番で登記されている条件付所有権移転仮登記を乙野太郎の相続人に移転する必要があります。

 

条件付所有権移転仮登記の名義人が死亡したため、その相続人に当該仮登記を移転する場合、条件付所有権移転仮登記の移転の登記を申請します。

 

登記原因は「相続」になります。

 

この登記は、相続による移転登記ですので、相続人からの単独申請になります。
また、登記の形式は付記登記となります。

 

【条件付所有権移転仮登記を相続を原因として移転したときの登記記録例】

順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転

昭和○年○月○日
第○○号

原因 昭和○年○月○日売買
所有者 住所
 甲 野 太 郎

 

 

 

 

 

 

 

付記1号

条件付所有権移転仮登記

平成○年○月○日
第○○号

原因 平成○年○月○日売買
(条件 農地法第3条の許可)
権利者 住所
  乙 野 太 郎

2番条件付所有権移転仮登記の移転 令和○年○月○日
第○○号
原因 令和○年○月○日相続
権利者 住所
 乙 野 一 郎

この条件付所有権移転登記の移転登記は、所有権の相続登記と同様に、相続を証する書面(戸籍謄本等、遺産分割協議書等)、乙野一郎の住民票が必要になります。

 

A所有権移転登記(仮登記の本登記)
農地法の許可を得ることにより、当該農地の所有権は、売主甲野太郎から買主(相続人乙野一郎)移転することになります。

 

所有権が移転すれば既になされている仮登記を本登記に移行することができます。

 

なお、当該売買契約により乙野太郎には農地の所有権は移転していないので、乙野太郎の所有権移転登記を行う必要はなく、直接相続人である乙野一郎に直接所有権移転登記を行うことになります。

 

甲区2番の余白に仮登記の本登記として乙野一郎名義の所有権移転登記がなされます。

 

仮登記の本登記は、甲野太郎と乙野一郎が共同して申請することになります。
仮登記の本登記の前提として上記条件付所有権移転仮登記の移転登記を経由している必要があります。

 

この仮登記の本登記に必要な書類は、売買契約書等の登記原因証明情報の他、売主甲野太郎の登記済証(甲区1番で登記を受けた際に交付されたもの)、作成後3ヶ月以内の印鑑証明書が、買主乙野一郎の住民票が必要になります。
また、農地法所定の許可を得ていることを証するため、農地法の許可書を添付する必要があります。

 

下記は仮登記の本登記を行った登記記録例になります。

順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転

昭和○年○月○日
第○○号

原因 昭和○年○月○日売買
所有者 住所
 甲 野 太 郎

 

 

 

 

 

 

 

付記1号

条件付所有権移転仮登記

平成○年○月○日
第○○号

原因 平成○年○月○日売買
(条件 農地法第3条の許可)
権利者 住所
  乙 野 太 郎

所有権移転 令和○年○月○日
第○○号

原因 令和○年○月○日売買
所有者 住所

 乙 野 一 郎

2番条件付所有権移転仮登記の移転

令和○年○月○日
第○○号

原因 令和○年○月○日相続
権利者 住所
 乙 野 一 郎

 

農地法の許可を得た後に仮登記名義人が死亡した場合

生前に、買主乙野太郎に対して農地法の許可がおり、その許可書が到達していた場合、農地の所有権は既に甲野太郎から乙野太郎に移転しています。

 

仮登記名義人の死亡以前に、農地法の許可がおりて買主に所有権が移転したが、登記未了の場合、まずは、亡乙野太郎名義の所有権移転登記(仮登記の本登記)を行い、その後当該農地を相続した相続人名義の相続登記を申請することになります。

 

必要な登記手続について

@亡乙野太郎名義の所有権移転登記(仮登記の本登記)
この登記は、乙野太郎と乙野一郎の相続人が共同して申請することになります。
乙野一郎の相続人が複数名いる場合、そのうちの一人が申請すればよいことになっています。
この登記を行うと、甲区2番の余白に乙野太郎名義の所有権移転登記がなされます。

 

A亡乙野太郎の相続人名義の相続登記
仮登記の本登記後(または、連件で)当該農地を相続した者を名義人とする相続登記を申請します。
相続登記は、当該農地を相続した者が単独で申請することができます。
この相続登記を行うと、甲区3番で甲野太郎の相続人名義の所有権移転登記がなされます。
甲区(農地)

順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転

昭和○○年○月○日
第○○号

原因 昭和○年○月○日売買
所有者 住所
 甲 野 太 郎

条件付所有権移転仮登記

平成○○年○月○日
第○○号

原因 平成○○年○月○日売買
(条件 農地法第3条の許可)
権利者 住所
 乙 野 太 郎

所有権移転 平成○○年○月○日
第○○号

原因 平成○○年○月○日売買
所有者 住所

 乙 野 太 郎

所有権移転 令和○年○月○日
第○○号

原因 令和○年○月○日相続
所有者 住所

 乙 野 一 郎

 

 

 

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