相続人不存在と相続財産法人
相続が開始したが、相続人があることが明らかでないときは、相続財産は法人となり、家庭裁判所により選任された相続財産管理人が相続人を捜索しながら相続財産を管理処分することになります。

相続人不存在と相続財産法人

相続が開始すると、一身専属権を除き、被相続人の財産は、その相続人が承継することになります。

民法第896条 
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

では、その相続人が明らかでないときはどうなるのでしょうか?

 

この場合、相続財産を承継すべき相続人を捜索する必要があります。

 

捜索の結果、相続人が明らかになれば、その相続人が当該相続につき相続手続きを行うことになります。
捜索しても相続人が明らかにならないときは、相続財産を清算して、相続財産の帰属先を決定する必要があります。

 

このように、相続が開始したが、相続人が明らかでない場合に、相続人の捜索と、相続人が出現しなかった場合の相続財産の清算を同時並行で行うのが相続人不存在の制度です。

 

相続人の不存在の制度については、民法第5編第6章(第951条〜第959条)に規定されています。

 

 

相続人不存在による相続財産の法人化

相続が開始したが、その相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人となります。(民法第951条)
相続人があれば、相続人が相続財産の帰属主体になるところ、相続人の不存在の場合、相続財産の帰属主体が不明または不存在となってしまうので、相続財産を無主の財産とすることを避けるために、相続財産を法人に擬制したものされています。

 

なお、相続人があることが明らかになったときは、相続財産法人は成立しなかったものとみなされます。(第955条)

 

相続人のあることが明らかでないときとは

@戸籍上相続人が存在しない場合
戸籍上、第一順位から第三順位の相続人が一人もいない及び配偶者相続人がいない場合、相続人のあることが明らかでないときに該当します。

 

A最終相続人の相続放棄等により相続人が一人もいなくなった場合
戸籍上、最終の相続資格者が存在するが、そのすべてが相続欠格、廃除または相続放棄により相続権を喪失した場合(例えば唯一の相続人が相続放棄をすれば相続人の不存在になります。)

 

相続人のあることが明らかでないときに該当しない場合

@包括受遺者がいる場合
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法第990条)ことから、相続人が一人もいない場合であっても包括受遺者がいるときは、相続人のあることが明らかでないときには該当しないとされています。
(最判平成9年9月12日)

 

A相続人が行方不明又は生死不明の場合
戸籍上、相続人が存在することは明らかであるが、その所在や生死が不明である場合は、相続人があることが明らかでないときには該当しないとされています。
相続人の所在や生死が不明の場合は、「不在者財産管理制度」や「失踪宣告制度」を利用して相続手続きを行うことになります。

 

相続財産管理人の選任

相続人不存在の場合、相続人の捜索及び相続財産の清算手続きを行うために、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申立てる必要があります。(第952条)
相続財産管理人は、相続財産法人の法定代理人・代表者であると解されています。

 

相続財産管理人の選任を申立てることができるのは、利害関係人又は検察官です。
ここでいう利害関係人とは、相続債権者、相続債務者、不動産担保権者、特別縁故者等になります。

 

選任申立ての管轄裁判所は、被相続人の住所地又は相続開始地の家庭裁判所になります。

 

 

相続財産法人成立による相続財産の管理清算の流れ

相続人を捜索しながら、相続財産の清算(相続財産の換価、弁済)を進めます。
相続人の不存在が確定し、なお残余相続財産があるときは、国に帰属することになります。

 

相続開始⇒相続人の不存在⇒相続財産法人の成立

第951条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

 

家庭裁判所による相続財産管理人の選任

第952条第1項 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない

 

相続財産管理人選任の公告

第952条第2項 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。

 

相続財産管理人による債権申出の公告

第957条 第952条第2項の公告(相続財産管理人選任公告)があった後2ヶ月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2ヶ月を下ることができない。

 

相続債権者、受遺者への弁済(第957条第2項相続の限定承認に関する規定を準用)

 

裁判所による相続人捜索の公告

第958条 前条第一項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6ヶ月を下ることができない。

 

相続人不存在の確定

 

特別縁故者への相続財産の分与

第958条の3 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第958条の期間(相続人捜索期間)の満了後3ヶ月以内にしなければならない。

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国庫帰属

第959条 前条の規定(特別縁故者に対する相続財産の分与)により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。

 

 

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