遺産分割前の預貯金払戻し制度の創設
平成30年の民法の改正(平成30年法律第72号)により、葬儀費用、医療費、施設入所費用等の支払い、相続人の当面の生活費など、緊急性の高い費用の支弁のための資金需要に応えるために、遺産分割前であっても、相続人が単独で、預貯金債権の払い戻しを受けることを認める制度が創設されました。(令和1年7月1日より施行)
遺産分割前の預貯金払戻し制度の創設理由
従来、「被相続人名義の預貯金債権については、遺産分割を経ることなく相続開始と同時に各共同相続人が法定相続分により分割された債権を単独で取得するのを原則とし、例外的に相続人全員の合意があれば、預貯金債権を遺産分割の対象財産に含めることができる」とされ、この考え方が、相続実務においても定着していました。
しかし、最高裁判所は、従来の考え方を変更し、「預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれる。」との判断を示しました。(最判平成28年12月19日)
従来の考え方によれば、甲がA銀行に対して1,000万円の預金債権を有していた場合、甲の相続人が子乙及び子丙であれば、相続開始と同時にA銀行に対する預金債権を乙が500万円、丙が500万円で相続により取得し、乙および丙は、遺産分割前であっても各自単独で500万円の払戻しをA銀行に請求することができたのですが、平成28年最高裁が、預貯金債権も遺産分割の対象財産になると判断したことから、法律的には、遺産分割前に、各相続人は単独で、自己の法定相続分に応じた払戻しを請求することができなくなりました。
しかしながら、これでは、当面の生活費、葬儀費用の支払い、相続債務の弁済等の資金需要がある場合であっても、遺産分割を成立させないと、相続人は払戻しを受けることができないことになります。
そこで、遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるように、民法を改正し、遺産分割前の預貯金の払戻し制度が新設されました。
遺産分割前の預貯金の払戻し制度の概要
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額(ただし、150万円が上限)までについて、他の共同相続人の同意がなくても、単独で払い戻しを受けることができることになりました。(民法909条の2)
被相続人甲、相続人子乙、子丙の場合の預金債権払戻しの上限額
A銀行の預金額 600万円
600万円×1/3×1/2=100万円
遺産分割前でも、乙および丙はA銀行に対して100万円を上限に単独で払戻しを請求することができます。
B銀行の預金額 1,200万円
1,200万円×1/3×1/2=200万円>150万円
遺産分割前でも、乙および丙はB銀行に対して150万円を上限に単独で払戻しを請求することができます。
共同相続人が遺産分割前に払戻しを受けた預貯金債権は、遺産の一部分割により取得したものとみなされます。
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